筆者は、セクシュアルマイノリティに関する活動をしています。その活動では、様々なジェンダーやセクシュアリティの方々とお会いします。交流会に参加したり、自ら交流会を主催することもあります。
筆者が参加したり、主催する交流会でたまに話されることがあります。それは、TBSが2001年10月から2002年3月にかけて放送したテレビドラマ「3年B組金八先生 第6シリーズ」(以下、金八先生)で登場した生徒「鶴本直」のことです。鶴本直は、役者・歌手の上戸彩さんが演じた性同一性障害に当てはまる人(*1)でした。当時、筆者もこのテレビドラマを見ていたので、鶴本直のことはよく覚えています。
交流会に参加される方々で金八先生の「鶴本直」のことを知っている方はたくさんいますが、鶴本直のことを話す方にはある共通点があります。その共通点は、その方がトランスジェンダーの人(当てはまるという人を含む)ということです。
「金八先生 第6シリーズ」が放送された2001年10月から2002年3月というと、筆者は13、4歳の中学2年生でした。当時は、まだトランスジェンダーに当てはまる人も「トランスジェンダー」という言葉を知らない人が多かったのではないかと思えてもおかしくなくて、トランスジェンダーに当てはまる人も当てはまらない人も金八先生で「性同一性障害」という言葉を知り始めたのではないかといえる時代です。
だから当時、リアルタイムで金八先生を見ていて、のちに自分がトランスジェンダーに当てはまると気が付いた人の記憶に焼き付くぐらいの衝撃があったのではないのでしょうか。それで、セクシュアルマイノリティの交流会に参加するようになったら、自分のジェンダー・セクシュアリティーで体験したことの1つとして、「金八先生の鶴本直」について話すのだと思います。
筆者は、金八先生の鶴本直のことをたまに思い出します。その時に、鶴本直と金八先生の中で性同一性障害について生徒に話す養護教諭の本田知美役を演じた役者の高畑淳子さんのことも一緒に思い出します。去年、上戸彩さんと高畑淳子さんがあるドラマで共演されていたのを見て、「この組み合わせは金八先生だけにして」と思ってしまいました。
筆者は、2002年から2008年ぐらいまで上戸彩さんのファンでした。「鶴本直から何か感じた」ということを意識するようなことはありませんでしたが、鶴本直を演じた上戸彩さんのファンになるぐらいですから筆者にとっても鶴本直の衝撃は大きかったのかと思います。だから、音楽CDや音楽DVDが発売されたら買い、イベントやライブがあれば行き、テレビドラマが放送されたら見て、映画の舞台挨拶があれば、朝から整理券を得るための列に並んだりもしました。それぐらい上戸彩さんが好きでした。特に上戸彩さんの音楽が好きだったので、今でも音楽CDと音楽DVDを持っています。2007年に上戸彩さんの曲のプロモーションビデオを見た時に「この上戸彩さんは違う」と感じ、2008年にファンをやめてしまいました。当時の筆者は、なぜ上戸彩さんのファンをやめたのか言葉にできませんでした。自分自身でも上戸彩さんの何が違うのか分かっていませんでした。しかし、ここ数年で「上戸彩さんの何が違って、ファンをやめたのか」分かってきました。それは何かというと、「鶴本直を演じた上戸彩さんを現実にはいない鶴本直の代わりにして好きになった」ということでした。上戸彩さんが好きだった頃を振り返ると、歌を歌っている上戸彩さんのソロ歌手デビューした2002年から2006年あたりまでの衣装はズボンが多く、見た目ではボーイッシュな格好でした。だから、鶴本直の代わりにすることができていたんだと思います。2007年に見たミュージックビデオに映っている上戸彩さんは、スカートを穿いていました。つまり、ズボンを穿く上戸彩さんは鶴本直の代わりにできたが、スカートを穿く上戸彩さんは鶴本直の代わりにできなかったということです。
金八先生 第6シリーズの「鶴本直」から感じる衝撃は、トランスジェンダーに当てはまる人にとってはとても大きく、トランスジェンダーとしての自分を語る上でのキーワードの1つにまでなってしまうほどです。鶴本直が金八先生に登場しなかったら、トランスジェンダーに当てはまる人が他に鶴本直ぐらい衝撃を感じるテレビドラマの登場人物はいなかったと思います。
*1:金八先生で上戸彩さんが演じた鶴本直は、設定上は性同一性障害の当事者ということでした。しかし、第6シリーズ時点での鶴本直に関するシーンでは、まだ性同一性障害であるという診断書を持っている(診断を受けた)ことが分かるシーンはなく、医師の診察を受けて、男性ホルモンの投与についての説明を受けるシーンだけあります。そのため、本連載での鶴本直の説明は「性同一性障害障害に当てはまる人」とさせていただきました。
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